圧倒的な余白から生まれる創業支援コミュニティ「小高パイオニアヴィレッジ」の挑戦

FVCが連携する南相馬の創業支援拠点「小高パイオニアヴィレッジ」を運営する一般社団法人パイオニズム運営和田智行さんより、現地視点で南相馬にどんなコミュニティが生まれているのか、今後どのような可能性があるのかを紹介しました。(下記、和田さん寄稿)

◆拠点運営者情報

小高パイオニアヴィレッジ(以下、OPV)は、2019年3月にオープンしたばかりの『宿泊できるコワーキングスペース』です。場所は、2016年7月まで避難指示区域となっていた南相馬市小高区の中心市街地にあり、日々様々な業種の利用者や宿泊者が出入りしています。

OPVのデザインコンセプトは「境界があいまいな建築」。ひとつの空間にワークスペースやイベントスペース、キッチン、宿泊施設を併設することにより、「仕事」と「暮らし」、「住民」と「よそ者」、そして「学ぶ」「働く」「遊ぶ」といった活動の境界すらもあいまいにすることで、利用者間に様々な化学反応を起こし、移り変わる課題や地域の可能性の伸びしろに対して、大胆な切り口や柔軟な発想で対応していく、そんなコミュニティの創出を目指しています。

OPVを運営する(株)小高ワーカーズベースは『地域100の課題から100のビジネスを創出する』というミッションを掲げ、2014年、まだ避難指示区域だった小高区にて創業しました。避難指示区域こそが現代社会においてゼロからまちづくりが可能なフロンティアであるととらえ、居住が許されない町にコワーキングスペース、食堂、仮設スーパー、ガラス工房などをオープンしてきました。1000人を雇用する1社の存在に依存するのではなく、10人を雇用する100の多様な事業者が躍動している。そんな風土を醸成すれば、この地域もこれから何百年と持続していくと信じて日々事業創出に取り組んでいます。

◆コミュニティの特徴や事例

OPVの利用者は、個人会員が8名、法人会員が4社で、コワーキングスペースではスタッフも含めて常時8~10名ぐらいが作業しています。また、ガラス工房「アトリエ iriser(イリゼ)」も入居しているため、オフィスワーカーだけでなくものづくりをする職人も同じ空間で働いています。

宿泊者も市外のフリーランサーや首都圏の企業にお勤めの方、農家や学生、サーファーなど多種多様です。常時利用している会員と多様な宿泊者とが緩く繋がれるのもこの施設の特徴です。

OPVには会員も宿泊者も自由に使えるキッチンがあります。そこでは「給食会」と称して会員やスタッフがつくったランチをみんなでいただいたり、夜も簡単な食事を作って懇親会を開いたりしています。

会員のコアになっているのは、起業型地域おこし協力隊「Next Commons Lab 南相馬」のメンバーです。アロマセラピーやサーファー向けの事業、酒造りなどで起業を目指す20~40代の男女が全国から7名移住しており、年度内には13名にまで拡大する予定です。

◆今後の展開

残念ですが、原発事故により避難指示区域となった町に対して、一般的にはネガティブなイメージを持たれています。ましてや起業するなんて非合理的にしか思えないと思います。しかしだからこそ、ここでは一般常識の延長線上にはない発想やチャレンジが必要とされ、それらを受け入れる風土も醸成されつつあります。

たとえば芥川賞作家の柳美里さんもそんな風土に魅了されたひとりです。彼女は避難指示区域だった小高で本屋をオープンしたり、青春五月党という劇団を旗揚げし自宅の裏にある倉庫で舞台をプロデュースしたりしています。彼女の事業や活動を多くの住民が応援しています。

有名人だから、あるいは話題性のある事業だから応援してもらえるのでは?と思われるかもしれませんが、そうではありません。ここには暮らしを失ったからこその「圧倒的な余白」が存在するのです。ほかの地域では競合他社に埋もれてしまうような小さな事業であっても、この地域では大きなインパクトを与える可能性があります。たとえば、パン屋がなくなってしまったこの町に、焼きたてのパンの香りを漂わせたら・・・その香りに誘われた住民から笑顔と感謝の言葉が寄せられ、よほどのことがない限りは、地域の大事なお店として応援していただけることでしょう。

そんな旧避難指示区域の可能性に共感した人を一人でも多く受け入れるために、『福島12市町村創業支援拠点ネットワーキング会議』も始めています。福島12市町村に拠点を置くコワーキングスペースやシェアオフィスが、互いに情報や課題を共有しサポートし合うことにより、各拠点を利用するチャレンジャー同士のネットワーク構築やコラボレーションも促進し、より起業しやすい環境の提供を目指しています。

多くの人にとって、起業とは特別な人だけに許された活動であると思われるかもしれません。しかし社会性の有無に関わらず実現したい未来があり、その未来と現状のギャップを埋めるアクションを自ら起こしたいと考えるのであれば、
成熟して緩やかに衰退していく社会に身を委ねモヤモヤを抱えながら人生を消費していくのではなく、暮らしをゼロから構築している新しい社会で、欲しい未来を実現するためにチャレンジするという選択をお勧めします。

余白だらけで伸びしろしかない現代日本のフロンティアで、私たちとともに欲しい未来を実現していきましょう。